12.27.2008

クリスマスの夜にアナーキー、その他短篇

書くことはいっぱい。でも時間はわずか。何から書こうか……箇条書きで。

1、20日の石川忠司氏との対談に来てくれたみなさん、ありがとうございました。人前できちんと話すのって難しいなってのと、でも人前に出るのってそんなに嫌いじゃないなってのと、しかしながらたとえ有名人になっても生放送のテレビに出るのだけは絶対やめようっていう堅い決心と。それから、ぼくら日本人って前提として共有してる知識とかユーモアの感覚とかってすごく少ないんだな、というのも改めて実感。打ち上げは楽しかった。この秋に知り合って一気にマブダチになった黒田晶や、じっくり話すのは二回目の神山修一さんや、久しぶりに会った編集者Oさんや、しょっちゅう会ってる編集者Sくんや、純粋に1ファンとして来てくれたKくんや。

2、我が人生におけるもっとも軽んじたクリスマスとなった。軽んじた、どころか、まったく何もしていない。どうもそんな気になれなったからなのだが、これは決していいことではないと思う。本当はクリスマスくらい神聖かつあたたかな気持ちになりたいものだ。キリストさん、ごめんね。

3、そんな、ぜんぜんクリスマスじゃないクリスマスだったわけだが、曽我部恵一からはとても素敵なクリスマスプレゼントのCDが届いた。トラキャンやヴェルヴェッツやミスフィッツやギャラクシー500やピクシーズやビートルズやの曲をアコギで弾き語ったカヴァー・アルバムなんだけど、ほんともう素晴らしくて、現在我が家のヘヴィーローテーション。でも、これ、非売品だそうで……なんかオレ、自慢してるみたいじゃん。曽我部くん、これほんとに売らないの? コピーライトの問題とかあるのかな? ……まあ少なくとも、下北沢CityCountryCityでリクエストすればかけてくれるはず。 

4、ゆうべ、渋谷のシアターNで『アナーキー』を観た。アナーキー、というのは、ラッパーのAnarchyではなく、日本のパンクバンドの元祖、亜無亜危異、のことです。クリスマスの夜にたった一人で観る映画(もしくは聴く音楽)とはとうてい思えないが、しびれたね。泣きそうになったね。吠えそうになったね。刮目すべきシーンばかりなのだけど、とくに、デビューしてまもない頃のインタビューで、彼らが……とりわけマリこと逸見泰成が、は?サウンド? おれらには歌詞しか重要じゃねえから…みたいなことを言っていて、思わず吹き出すとともにわーおって叫びたくなるほど興奮した。これがなんとギタリストのセリフだぜ。きっとマリはロックをこそやっているのであって音楽をやってるつもりはないんだよね。最高だ。ほんと最高。最高のパンクス。

5、タバコをやめた。再び、やめた。いつのまに吸ってたんだよおまえ、ってかんじだけど、タバコはやめる時だけ宣言するものである。

6、お待たせしている「女たち」の単行本、発売は2月10日前後になるものと思われます。……が、この期に及んで、引用しているスミスの歌詞のコピーライト問題が浮上し、いささか落ち着かないおれ。まあ、大丈夫だとは思うけど。つーか、大丈夫じゃなきゃ困るよ! 神さまとモリシー&マーへの祈りを込めて、つーか早い話、願掛けで、今さら買う必要などまるっきりないと思っていた先月発売されたばかりのスミスのベスト盤「the sound of the smiths」を急遽購入。これがね! 全曲リマスタリングらしく、なんか音がやたらいいぞ。気のせい? しかも、Disc2には、これまでは7インチのアナログやブートレグでしか聴けなかった名曲「ジーン」とか、「ハンサム・デヴィル」の83年ハシエンダ@マンチェスターでのライヴ音源とかが入っていて、棚から牡丹餅、うれしいことこの上ない。これは買いだよ!新保くん。実名出して悪いが、マジで! ……あ、もう買ってる? ……スミスのオリジナル・アルバムをぜんぶ持ってる人もスミスまったく未体験の人も年末年始はぜひこれを聴きつつ、歌詞の引用許可がすんなり出ることを、お祈りください。

では。まだ書くかもしれないけど、ひとまず……今年もありがとう。良いお年を。来年もよろしくね。

12.09.2008

死んだことが悪魔にバレる前に

驚異の更新ペースは続いています。落書きしちゃえ、みたいな気分。

先週末、たぶん『TOKYO!』以来の映画館に行って、シドニー・ルメット監督『その土曜日、7時58分』を観た(原題は"Before The Devil Knows You're Dead")。プログラムにあった監督のインタビューも照らし合わせて一言で説明するなら、犯罪系あるいは転落系メロドラマ、ということになると思うんだけど、メロドラマ、という言葉から普通イメージするものよりは作りが凝っているし、最近だと『カポーティ』でカポーティを演じたフィリップ・シーモア・ホフマンをはじめとする俳優陣の演技はさすが、というか秀逸で、着席した時にはうっすらと感じていた尿意を完璧に忘れさせる、あっという間の1時間57分だった。

ところで、ここ2、3年は予告篇でわくわくすることがめっきり少なくなっていたのだが、この日は「お!」というものが何本かあり、この冬は何度か映画館に足を運ぶことになりそうだ。さっそく前売りチケットも買った。

そうそう、何度か白状してるように、おれは家で映画を観るのが不得手だ。そのことをこれまではけっこう後ろめたく思っていて、克服しようとネット宅配レンタルサービスの会員になってみたりもしたのだが、この三か月間、月会費にして六千円弱も払って、借りたのはたったの4枚、観たのは2.5本、という体たらく(まあ、時期も悪かったのだけどね)。というわけで、あきらめた。で、高らかに宣言。わたしは家で映画を観るのが苦手な人間です。家では、本と音楽と猫でおおむねじゅうぶんなのです。ついでに、我が人生においても、必要か不必要かと問われれば必要ですけど、しかしながら本や音楽や猫ほどには映画は必要ではないようです。……あ、「猫」のところは、半ば真実、半ば暗喩ですが。

とか書くと、映画の仕事が来なくなるかな。やべ。

12.05.2008

the sworn group

史上初(たぶん)の二日連続更新! おれは狂ったのか。

ゆうべは大学以来のマブダチであるキリンジの元マネに誘われて南青山のライヴハウスに行った。目当てのバンドはthe sworn group. 事前に音を聴かせてもらっていたのだけど、その印象に違わず、とても素敵なバンドだった。穏やかにして力強いグルーヴとビタースウィートなリリシズムをたたえた歌とギター。……などと簡単に言ってしまうのが憚られるほどに魅力的なサウンドと歌だった。聴いてるうちに自然と心が浄化され、しかも背筋がしゃんと伸びていくような。すっごく久々だね、こんな瑞々しい気持ちになったのは。既存のバンドに喩えられるのはやってる本人たちの望むところではないと思うけど、あえて言おう。彼らは日本のthe trash can sinatrasだと。

今朝も彼らの曲を繰り返し聞いている。空は美しく曇っているし、おれは時空から落ちこぼれて、いつになくハッピーだ。

 

12.04.2008

世界を肯定するのはジジイになってからでいい

驚異のペースでの更新! でしょ。やればできるんだって。

ゆうべは石川忠司と20日の朝日カルチャーセンター新宿での対論について打ち合わた。酔いがまわってくるにつれて、打ち合わせの色は薄まり、ただの飲みに移行していったが、いずれにしろ刺激に満ちた話だった。過去に二度やらせてもらった、吉祥寺・百年でのトークショーとは少々趣が違って、場所柄、アカデミックな側面がより幅を利かすことになるだろうし、「受講料」もちょっと高いのだけど、小説・文学好きな人にはぜひ来てもらいたい。詳細と申し込みはこちら

池袋駅で別れる時に、「桜井、家どこだっけ?」って訊くから、「たまプラ。ファッキン・コンサヴァティヴな町。うんざりだね」って答えたら、石川さんが「ヤンキーの町だってうんざりだぜ」って言ってニヤっと笑い、三郷に帰っていったのが、妙に可笑しかったな。なんというか、説明のつかない変な話だけど、住んでる場所に対する居心地の悪さを今は大切にしたいと思う。この社会/世界の圧倒的な歪さを失念してしまわぬためにも。

11.30.2008

閉店寸前?

すっかり放置している、このブログ。まあ、気にはしてるんだけどさ、なんというかブログ向きの気分にならないんだよ、ここんところ。

最近、ターンテーブルを買い替えたこともあって、アナログ・レコードを地味に購入している。家にある昔のを聴き直したり。CDやiPodと違って、「音楽を聴く」という行為に「レコードを置いて針を落とす」という作業が含まれているのがやっぱいいね。能動的にならざるをえない。そのせいか、一個一個の音がCDで聴いてる時よりも重い気がする。で、そんな流れで、この頃ヒップホップにはまり始めている。まあ、このジャンルにはちっとも精通してないので、ほとんどジャケ買いなんだけど。どっちがアーティスト名でどっちが曲のタイトルなんだかわからないままに聴いたりもしていて、なんだか濃霧の夜道をさまよっている気分だ。いずれ、もう少しクリアになってくるのだろうけど、今はもう少しこの不安定な彷徨を味わいたいと思っている。

今週こそ映画館に行こう。気が付けば、師走。勘弁してくれよな。

11.07.2008

ログインのパスワードを忘れるほどに。

わぁーお。ひと月以上、更新してなかった! 
わぁーお、じゃねえか。今、ログインのパスワードを二度も間違える始末。
更新しなかった――理由1、忙しかった。「女たち」の書き下ろし分に集中してた。
理由2、何を書いていいのかわかんなくなった。何を書くわけ?とか思って。書きたいこともないといえばないし。書き方みたいなのもわからなくなるし。
理由3、怠惰。やっぱり怠惰。
理由4、嫌い。やっぱり嫌い。

まあいいや。そういう時もあるよ。ね? 許して。

この間の連休、半年ぶりにハーフマラソンを走った。今回は初出場となる那須塩原ハーフマラソンという大会。忙しかったので、走り込みが足りず、ほんの10日前までは完走さえ危ぶんでいたのだけど、最後は力ずくで調整し、終わってみれば、自己記録をなんと三分以上も更新する驚異のタイムで完走。しかも、コースと気候のせいもあってか、ほとんど最初から最後まで、楽しくってね。しんどかったのは、5〜7キロぐらいと19キロ以降だけ。あとはもう、ウハウハな気分で走ってた。沿道の観衆、というか、がんばれーとかって声をかけてくれる地元民(七割は高齢者、そのまた三割は車椅子からの声援)に手を振り返したりしてね。プレイリストもばっちり。今回はおれにしては珍しく、明るい曲の比率を多くしたのがよかった。明るい曲といっても、phoenixとかlemon jellyとかキリンジとかなんだけど。次は1月の千葉マリンだ。で、その次は3月のパリを走りたい。セミ・マラトン・デ・パリ! パリよ! 燃料チャージと為替レートとおれの稼ぎ次第だぜ。世の中、やっぱ、金だよな〜。金こそすべてだ。All I need is money! 

お知らせ、1。「女たち」の単行本は来年1月末の発売となりそう。3話を書き下ろしたので、ぜんぶで13話。それに「サンドラ」の英訳も併せて収録されます。英訳だぜ! コネチカットの叔母さんとかにも読ませてあげてね。

お知らせ、2。12月20日(土曜)に、朝日カルチャーセンター新宿校で、文芸評論家であり、おれがもっとも尊敬する書き手の一人である、石川忠司氏と対談やります! メインテーマは小説作法・・・ということになるかな。小説を書いている人はもちろん、小説を読むのを人生の大きな楽しみにしている人に、刺激と勇気と失望(笑)をもたらしたいと思ってる。今からスケジュール帳に赤丸を付けといて。昼間です。詳しくはこちらで。


ではまた。
C U next week.maybe.

10.06.2008

ゴジラって火を吹くんだっけ?

Eで〜す。お久しぶりで〜す。
スズモ先生はお忙しいようなので今日はわたしが一肌脱ぎます……というのはウソで、おれだよスズモ本人だよ、残念ながら。最近、無給秘書のEがちっとも登場しないよねえ。好きな時に更新していいよって言ってあるんだけどね、思いのほかシャイみたい(ほんとか?)。
ともあれ、ほんとに久しぶり。不穏なタイトルの日記が張り出されたままでしたけど、べつに悪気や企みはありません。忙しいだけ。あと、ブログがあんまり好きじゃないだけ(笑)。やめないけどね。少なくとも当分は。

今日は一つ自慢話を。おれもずっと知らなかったんだけど、7月発売の「文藝」秋号の文芸時評において神山修一氏が、「群像」の4月号に掲載されたおれの「ウィンタータイム・ブルーズ」を取り上げてくれているんだけど、これがとても的を射た、しかも素敵な評でね。すごくうれしいんだよ。文芸時評自体がそもそも面白いし。7月発売のだからもう本屋さんには置いてないだろうけど、興味のある人は図書館とかでチェックしてみて。じつは、このブログでは基本的に文芸ネタを避けているので報告してなかったけど、「ウィンタータイム・ブルーズ」は掲載翌月の「文學界」(つまり5月号か)の「新人小説月評」というコーナーでも橋本勝也氏が前月のベストに上げてくれていたんだよ。まあ、自信作ではあったんだけどさ。しかしね。しかしね、そのわりに当の文芸誌編集者からは連絡がないよ〜。家の電話鳴らないよ〜。どうなってるんだろうね。文芸セレブの応対で大わらわなのかね?・・・などという話になると、タブーとしている文芸ネタになって、おれゴジラのように火を吹いてしまいそうだから、このへんでやめておこ。

そうそう、「女たち」の単行本だけど、いろいろと事情があって(その中身については言えませんが)、書き下ろし分の執筆が大幅に遅れており、刊行はうまくいって年の暮れ、もしかすると来年早々にずれ込んでしまうかも。待っていてくれてるみなさん、ごめんなさい。そのかわり、最高に素敵な本をお届けすることを約束するので、容赦してちょうだい。

次は阪神タイガースのネタでも。
C U.

9.17.2008

日本人がもっとも汚らわしい、とメルドは言った。

こんにちは。

まずは相撲力士の大麻吸引問題について一言。大麻くらいでそんなに目くじら立てんなよ。いいじゃねえか、ハッパくらい吸ったって。しかも、相撲取りだぜ。政治家とか裁判官とかじゃねえんだから。とおれは思うわけだが、なにが腑に落ちないって、口調こそ違えどこういうことを言うやつが日本のメディアの世界にちっとも見当たらないこと。なんでみんな同じ意見なんだ? もっといろんな意見や感想があっていいんじゃないの? だってハッパなんてオランダに行けば合法なんだぞ。オランダ以外の欧米諸国でも、ハッパを個人的に吸ってるくらいじゃ咎められたり捕まったりしないぜ。それと、大麻と、シャブやLSDやヘロインなどケミカルドラッグはまったく別のものだ。そのくらいのこと、報道にかかわってる人間やモノを申す立場にある人間は知っているだろうに。もし知らなかったら勉強しろよ。知ってるんだったらそれをちゃんと報道しろよ発言しろよ。ようするに、ちゃんと働けよ。ジャーナリストや言論人としての職務を全うしろよ。

いや、なにもね、大麻を合法化しましょう、とまで言ってるわけじゃないの、おれは。もうちょっと世の中ゆるくてもいいんじゃない?ってことと、みんなで同じ方向を向くのは危険じゃない?ってことが言いたいの。わかりますか?

それから久々に映画館で映画を観た。『TOKYO!』。知らない人のために簡単に説明しておくと、ミシェル・ゴンドリー(From ニューヨーク)、レオス・カラックス(From パリ)、ポン・ジュノ(From ソウル)、という三人の外国人監督が東京を舞台に撮った短篇(もしくは中篇?)のオムニバス。どれもそれぞれに良かったけど、やっぱレオス・カラックスの〈メルド〉には圧倒されたね。あきらかに制作側の意図を逸脱してるよ。だって、べつに舞台が東京である必然性がないんだもの。日本のお偉いさんが冷や汗を流しそうな、デンジャラスなシーンやセリフに溢れているし。じんわりするシーンやキュンとするシーンなんて皆無。ただもう呆気にとられる。でなければ慄然とさせられる。そうして、むしろ鑑賞後に、重くて深い感動が忍び寄ってくるのだ。

まあ、カラックスに対する贔屓目もあるのかもしれないんだけどね。なんてったって、レオス・カラックスはおれの人生に圧倒的影響を与えた、まあ、少なくとも五人のうちの一人なのだから。

まだ観てない人はぜひとも劇場公開が終わらぬうちに!

ではまた。じゃあねー。

9.06.2008

手短かに

こんにちは、ヘンリー・ロリンズです。

まだ、ぼくの手元には届いてなくて、完成稿をちゃんと読んでないけど、今日発売の「ダ・ヴィンチ」10月号に、短篇(というより、ショート・ストーリーと言ったほうがしっくりくるんだけど)「ドロー Draw」が掲載されてます。ご一読ください。

・・・なんか面白い話題あったっけな。
うーん、あるといえばあるし、ないといえばない、というその程度。

またあらためて。

8.27.2008

ジャージは大切です。

 北京オリンピックは観てましたか? ぼくは、時間がもったいない、と思いつつ、けっこう観てました。つい、ね。つい、観てるわりには、思いのほか感動したりね。興奮&感動したベスト3は、1、男子400メートルリレー決勝での日本チームの銅メダル獲得ラン、2、女子走り高跳び決勝でベルギーのメガネちゃんの跳躍後の絶叫と彼女の金メダル、3、男子バスケットボール決勝アメリカ対スペイン第4クォーター。それに、深夜のダイジェストで観たので生中継じゃないんだけど女子ソフトボール決勝日本チーム悲願の金メダルも良かった。気分を害したナンバーワンは野球。あきれる采配。さようなら、星野タイプの日本人。とか、おれは思いたいけど、そうもいかないんだろうね。
 それはそうと、オリンピック開催中ずうっと気になっていたのだけど、日本チームのジャージというかウォームアップスーツはどうしてあんなにかっこ悪いんだろう? というか、どうしてあんなにかっこ悪いデザインが採用されるのだろう? 胸にでっかくJAPAN。中途半端な長さの襟。なんか袖も短くないか。あれを着なくてはいけない選手がとても気の毒だった。ああいうのが採用される裏には、またしてもキナ臭い経緯があるんだろうな。そうじゃないと、説明がつかないよ。
  
 暑い暑い夏もようやく終わりに近づいてる。蝉がそれを惜しむかのようにひときわ大きく鳴いている。

8.14.2008

三十歳以下の人間を信用するな!

たまには読み物の話を。
本当にひさしぶりに眠るのを惜しんで、いや、というより、眠るのも忘れて、読み耽った一冊の本と雑誌掲載の長篇評論。

まず、吉田豪「BAND LIFE バンドライフ」(メディアックス)。いまみちともたか、水戸華之介、関口誠人、阿部義晴、NAOKI、KENZIといった主に80年代から90年代初頭にかけて活躍したバンドマンたちへのインタビュー集なんだけど、吉田豪のインタビュアーとしてのテクニックと(たぶん)人柄に乗せられて、それぞれが、その生い立ちや、人気絶頂期の裏話や、その後の生活などについて吐露している。とくにすげえファンだったアーティストがいるわけじゃないんだが、へえバンドの裏事情はそうだったのか、とか、あの人は今なにをしている、とか、そういう三面記事的なことを軽く超越して、人間というものやぼくらの生きる社会や生きることの悲哀みたいなものが浮かび上がってきて、最終的には感極まってしまう。へたな小説よりよっぽど面白いぞ。思わず膝を打った――というか笑ったダイヤモンド・ユカイの言葉……「ドント・トラスト・アンダー・サーティ!」

それから出たばかりの「新潮」9月号に掲載されている、水村美苗「日本語が亡びるとき――英語の世紀の中で」。これはねえ、もうなんと言ったらよいか。激しく共感したし、おそろしく高揚したし、深く感銘したし。おれがここ数年、いや、潜在的にはかれこれ二十年間くらいひしひしと感じていたことぼんやりと考えていたこと、けれども怠惰だから、あるいは馬鹿だから、体系的に把握できないでいたこと、酔った席とかで誰かに言ってみたりはしたもののそれを語るきちんとした言葉を持たないがゆえに当然ながらちゃんと理解されずにいたこと、そしてちゃんと理解されないから苛立って思わずデカイ声になり相手に煙たがられ、しまいには支離滅裂になって時には翌朝の自己嫌悪の原因の一つにさえなっていたことが、すばらしく実際的、かつ、うっとりするほど美しい日本語で綴られている。読んでいる間、ずっと胸がばくばくしていた。へたな小説よりも三百倍は読む価値があるぞ。今後はこれを読んだ人としか、日本語についてや日本語文学についてや世界における日本のポジションについてやインターナショナリズムについてやローカリズムについての議論はしません! まあ、酔ってふっかけるかもしれないけどね(笑)。中心となる論旨とはあんまり関係ないけど、思わず膝を打ったフレーズ……「そして、世界の様子がさらにわかるにつれ、世界のスノビズムもわかってきた。世界のスノビズムがわかってくれば、辺境ほどスノッブになるという法則が働く。」 

ではまた。

8.07.2008

てんてつき、と読みます


眠たい。だるい。だらだらしてる場合じゃないんだが。

本日発売の「群像」9月号に、中篇「転轍機」が掲載されています。ぜひともご一読を。
そうそう、かつて、アマゾンでは、群像とか文學界とかの文芸誌は買えなかったはずなのだけど、いつからか買えるようになっているね(知ってた?)。なので、近くにまともな本屋さんがないという人も、入手できます。

ゆうべもCityCountryCityで言われたんだけど、このごろよく「ブログ読んでますよ」と言われる。まあ、もちろん、嬉しいことは嬉しいのだけど、こんなテキトーなブログはともかく、小説も読んでくださいね。敢生くん! つぎは「転轍機、読みましたよ」と。

ではまた。

7.31.2008

ネジは西ドイツ製

 このブログにはシリアスなこと(含む、日本の文芸ネタ)とあまりプライベートすぎることは書かないって決めているのだけど、そのせいでぜんぜん書くことがない。ということは、おれの日々はシリアスなことととてもプライベートなことで成り立っているということなのか。そうかもしれん。いや、そもそも人生からシリアスなことととてもプライベートなことを引くとなにが残るんだっけ? あ、そうか、最近あんまり映画観てないな。音楽もそれほど(除く、流し聞き)。それで書くことないのか。フジロック? フジロックは行けなくなったんだよ。うちの老黒猫が糖尿病になり、一日二回朝晩インシュリン注射を打たなければならなくなったので。入院はかわいそうだな、と思って。病院に行っただけで、びびって体が固まっちゃうからね、うちの老黒猫。まあ、そんなに長くはないだろうし。って、三年とか、この状態のまんまだったら、どこも行けないじゃん?
 
 今朝は、エアコンを旧寝室から新寝室へ移してもらうためエアコン工事業者のおっさんとその奥さん(だと思う)が来てくれたんだけど、いちいちいろいろ説明してくれてちょっと煩わしかったけどすごく面白かった。「なあ、お客さん。見て、このネジ。これ、西ドイツ製よ。一個百円。百円だぜ、このちっこいのが。これを扱ってる問屋は横浜中に一軒しかない。そのへんのいいかげんな業者が使ってんのはありきたりの安い日本製ね。あれ、ダメなんだよなあ。重みに耐えられない。たまに落っこちてくるんだぜ、エアコンが、どかんと、頭の上から。やっぱ、西ドイツ製にかなわないんだよ。ベンツ、BMW……なあ? 違うんだよ、西ドイツ製は。」とか。西ドイツ…って、と思ったけど、もちろん、突っ込まない。工事が終わった後も、おっさんとしばし、話し込んだ。おっさんは、いつのまにか我が家のリビングルームの床にあぐらをかいて座ってる。なにを話し込んだかって? そりゃひたすらエアコンについてだよ。世間話の類いは一切なし。すべてエアコンに係わるマテリアルな話。なのに、いつしか人生とか世界とかの話をしているような気分になっている。細部には細部の神が宿ってんだよなあ、きっと。いずれこういう小説を書きたいと思いました。

 ところで、エアコン選びの極意を教わった。あと、ネット販売オンリーの安い業者とか。エアコンを買い替えよう、とか思ってるきみ。まずはぼくに相談を。見積もり無料。

7.17.2008

夏の女たち

 多忙のため(ほんとです)、丸一日遅れになってしまったけど、二か月ぶりの「女たち」第10話〜ソノコを更新しました。お楽しみください……って変? 楽しめるかどうかは知りませんが、ぜひともご笑覧ください。
 近々FOILさんのほうから正式な告知があると思いますが、じつは今回がウェブ上で発表する最後の「女たち」になります。これらの十話に、プラス何話か書き下ろして、十月頃、単行本化される予定です。ウェブ上で読むのは苦手、という人もたくさんいたはずだけど(実際、何人もの友人にそう言われました)、根気よく読んでくれてありがとう。本は、もちろん縦書きだからね、また違った雰囲気を楽しめると思う。それに、なんといってもFOILさんだからさ、カッコいい本に仕上がるんじゃないかな。楽しみにしていてください。

 それにしても夏だね!夏。いや、じつはあんまり夏って好きじゃないんだけどね、今年はいいかんじで夏に入ってる。どうか、みんなのところにも、素敵な夏が来ていますように。

 今日はさらっと。次からまた毒舌に戻ります。なんて。いつもさらっとさわやかに書けたらいいんだけど。

7.10.2008

とくべつな日本の私


 とくに書くことないんだよ。アメリカのネタはいくらでもあったんだけどね、ちとタイミングを逸したしね。まあ、タイミングなんてシカトして、書いてもいいんだけどね。書くか? 書こ。
 あのね、本屋さん。これはアメリカに限ったことじゃないんだけどね、というのはポルトガルの本屋さんもそうだったし、パリの英語の本屋さんもそうだったし、シンガポールの本屋さんもそうだった――、日本ではどんなに小さな本屋さんでも、日本文学と海外(翻訳)文学のコーナーは分かれてるでしょ。大きな本屋さんは海外文学をさらに国別に分けてたりするでしょ。これがね、ひょっとすると非常に日本固有のやり方かもしれないんだよね(断定できないのは、すべての国の本屋さんに行ったわけではないからーーあたりまえだけどさ)。アメリカ(に限らず、その他、前述のとおり)では、ジャンルにしか分かれていません。文芸Literature、ミステリーMystery、ロマンスRomance、あとSFとかTeenとか(もちろん、本屋の規模が小さければ、文芸とミステリーにしか分かれていなかったりもする――そう言えば、シカゴ大学生協書籍部は、ドストエフスキーもヴォネガットも三島もエルロイもジム・トンプソンもぜんぶ同じ棚だった)。で、それぞれが著者名のAtoZで並んでいる。つまり、だ。例えば、Kの欄には、Kafka(,Franz)が、Kawabata(,Yasunari)が、Kerouac(,Jack)が、Mの欄には、Maugham(,W.Smerset)が、Miller(,Henry)が、Murakami(,Haruki)が、入ってるわけ。わかる? おれのいいたいこと?(なんか、かんじ悪、きょうのおれ。)要するにね、アメリカの国内文学である(=翻訳ものではない)ケルアックやミラーが、海外=翻訳文学であるカフカや川端康成や村上春樹と同等に扱われているの(サマセット・モームはイギリスの作家なので、アメリカにとって海外文学でありながら翻訳ものではない、という変なカテゴリーになるんだけど)。国内か海外かはどうでもよくなっているんだよ。最初に何語で執筆されようが文芸は文芸じゃん、という。ひいては、読者も(おそらく)英語ものか翻訳ものかなんてあんまり気にしなくなるよね。だって、ボルヘスBorges(アルゼンチン)の並びにブコウスキーBukowski(アメリカ)があったり、カポーティCapote(アメリカ)のならびにチェーホフChekhov(ロシア)があったりするんだから。おれSakurai(日本)の本がいつか英語に訳されたらサリンジャーSalinger(アメリカ)やサルトルSartre(フランス)と同じSの欄に入るんだぜ! これって素晴らしいことだと思うな。それに比べて、ここ日本では、どうして日本文学のことをこんなにも特別に考えるんだろうね。繰り返しになるけど、日本では図書館でも本屋でも絶対(100%)に、日本ものと海外ものは別の棚に置かれてる。だから、読者も「翻訳ものは苦手!」とか「やっぱ日本人じゃないと感性がねえ」とか平気で言うようになるんだよな。これはあんまりいいことじゃないと思う。
 日本人が日本人や日本社会や日本なんとかを特別に考えているらしい、もうひとつの例をついでに。ずいぶん前(…前というよりは昔か――まだ万引きとかしてた頃)に、おれはすごいことに気づいたのだ。日本の出版社から出ている世界地図帳には日本が載っていない!と。日本は世界に含まれないのか! そのことに気付いたきっかけは、イギリスとかスペインとか、まあどこでもいいんだけど、それらの国とおおよそ同じ縮尺で日本を見てみたいと思ったの。バルセロナとマドリッドの距離感って日本に置き換えると東京と何処くらいの距離感なんだろう、とか、イビサ島って日本の島でいうとどのくらいの大きさなのかなあ、とか知りたくなってね。ところが、今言ったように、日本の世界地図帳には、日本のページはないのだ! 日本の地理を知りたかったら日本地図帳を見なくてはならない。見ればいいじゃん? いや、ダメなんだな、この目的のためには。なぜって日本地図帳では縮尺があまりにも違いすぎて、まったく別世界のようになってしまうから。あれ~世界地図帳ってそんなもん?とずっとひそかに思ってて、ついにイギリスに行った時にイギリスの出版社から出ている世界地図帳を買った。すると、ふつうに、あたりまえのように、イギリスのページがあって、他の国や地域と同じように、同じような縮尺で載っている。べつに自分の国だからって特別扱いしてないわけ。そして、当然ながら、日本のページもあって、おれは、このイギリスの世界地図帳で、はじめて世界地図帳的縮尺ともいうべき大きさで載っている日本を見たのだった。

だから何って?(こういうこと言うやつは嫌いです、ちなみに) まあ、言いたいことはあるんだけど、この先はちゃんとロジックを組み立てていないので、タオルを投げるけどさ(ハハハ!)、生理的なことを言わせてもらえば、気持ち悪いのだ、日本における日本の特別扱いが。だって、自分のことを特別な人間だと思ってるやつって気持ち悪いじゃん。おめでたいじゃん。俺ヤザワ、そーゆーこと。みたいなのは、まあ、面白いから、いいけど。

写真はニューヨーク近代美術館(MoMA)にて。

6.26.2008

ナオミとデーモン


日本に帰ってきてからというもの、あ~あ、みたいな気分が続いている。頭の中は、ぼわ~ん、としている。どろ~ん、というかんじでもある。うにゃうにゃにゃ、というのもあるな。くお~ん、も。あ~あ、ぼわ~ん、どろ~ん、うにゃにゃにゃ、くお~ん。要するに、12日間の間に日付変更線を二回超えたことによる時差ぼけとある種の緊張感から解放されたことによる脱力感と世界の僻地に戻ってきてしまったことによる厭世観とニコチンの禁断症状が微妙な配合でミックスされてしまったようなのだ。そうなのだ、タバコをやめたのだ。やめるのはじつは人生二回目なのだけど、とにかく再び、やめたのだ。どこへ行っても"No Smoking"の国に感化されたのである。...うそ。...いや、うそでもないけど、それより断然大きな理由は(というのは、日本に帰ってきてから最初の三日間はなんだかなーと思いつつも吸っていたのだから)、我らがランニングチームUJOSのキャプテン験さんが、この惑星最後の喫煙者になるのだろうと予想されたヘヴィスモーカーの験さんが、ハーフマラソンのスタート直前でさえ銜えタバコでアキレス腱を伸ばしていた験さんが、タバコをやめたからなのだ。この事実を知った時はとてつもなく激しいショックを受けた。たとえ、うちのおふくろが携帯電話を持つようになって「くくく。母さんだよ」みたいなメールがある朝突然届いたとしても、こんなにはショックを受けないだろう。人間は信用ならない! 残酷な生き物だ! 人の期待をよそにこんなにもあっさりと変わってしまうものなのだ! まあいいや。そんなわけでおれもやめた。どぶに捨てたよキャメルメンソール。グッバイおれの喫煙人生。だってやめないと次の大会でキャプテンに負けちゃうかもしれないじゃん。キャプテンに負けるということはチームのしんがりということだよ。帰り道は運転しなくちゃいけないということだよ。それはUJOSの元エースランナーとしてのプライドが許さないのだ。
 まあ、戯言はさておき、なんで日本はこんなにタバコが安いのだ? この事実にも頭にきちゃったんだよねえ。さあどうぞ中毒者になってください、と言わんばかりの値段でしょ。エコ、エコ、ってこんなにうるさい国なのに(それ自体は悪いことではないにしろ)タバコについてはめっぽう甘いんだよなあ。タバコ会社へのオヤジ臭い配慮が見え見え。もっと税金取れよ。そういうところからこそ税金取れよ。900円くらいにしろ。いやまあ、タバコに限らずね、オヤジ臭い配慮と癒着が横行してるよ、わが国では。

 あれ? こんなこと書くつもりじゃなかったんだけど。えーと、書こうと思ってたのは、ブルックリンのライヴハウスでDamon & Naomiを観たんだけど、すごく良かったよ、ということ。時代に逆行してるかのようなサウンドなんだけど、しびれたね。Galaxie500は大好きで、LUNAは初来日の時に渋谷で観てるんだけど、じつはDamon & Naomiは初めてだったんだ。なんとなく"残りの二人=The other two"というイメージが強かったんだけど、とても失礼な思い違いだった。で、終演後、LPを買ってジャケットにサインをもらったんだけどさ、Naomiに先にもらったものだから、サインが"Naomi & Damon"になってるんだよ。ちょっとまがい物ぽくってそこも気に入っている。

 写真とこの文章はまったく関係ありません。写真はニューヨークの地下鉄内で。

6.25.2008

ニューヨーク、ブルックリンにて。そして……


 午前五時。ニューヨーク市、ブルックリンのホテル。マンハッタンじゃなくてブルックリンに滞在してるのは、おれがマンハッタンで浮かれるような田舎者ではなく、もっとヒップでスマートな人間だから。…うそ。…だって、マンハッタンのホテルは異常に高いんだもん。……いや、まあ、それもあるけど、ずっと、ニューヨークを訪れる時はブルックリンに来ようと思っていたのだ。やっぱ、ブルックリンでしょ。ウディ・アレンに「ブルックリン最終出口」にポール・オースターに「ナイト・オン・ザ・プラネット」に……あとなんだっけね? もっとも、ブルックリン、と言ったって、ニューヨークにある五区のうち、最大の人口を擁する区を指すわけで、面積も広く、地図から察するに、というか、かなりラフな目分量だけれども、世田谷区と大田区と目黒区を合わせたくらいの広さはあると思われるので、場所によって様々なんだろうけど。
 ところで、タバコが吸いてえよ。アメリカに来てから、まだ二本しか吸ってないんだけどね。吸う場所も非常に限られてるし値段も高いし(銘柄によってじゃっかんの違いはあるものの概してイリノイ州で7ドル、ニューヨーク州で9ドル)。吸った1本はシカゴのブルーズ・フェスティヴァルで、マックスが黒人のちょいクレイジーなじいさんにもらって美味そうに吸ってたからおれもつい便乗して。もう1本は、アムトラックの長〜い停車中に、ジャストサイズの黒シャツにスリムなグレーのスラックスに先の尖った革靴をはいたおしゃれだけど場違いなロシア人の男に、半ば強引にすすめられて(なんとケイシーはメガネのくせに!自分のタバコを持っていた。そしてさすがロシア文学専攻、いつのまにかロシア語で会話してる)。この2本目のパーラメントが効いてるなあ。五臓六腑に染み渡ったもんなあ。くっそーロシア人め。要らないって断わったのに……最初は。
 まあいいや、ホテルはもちろん禁煙だし、こんな朝っぱらから売ってるとこないだろうし……で、話を戻すと、ブルックリン、いいよ〜。もう、マンハッタンは行かなくてもいいかな、と最初は思ったくらい。まあ、行ったけど。今日も行く予定だけど。マンハッタンに行くというよりは、美術館にね。昨日はブルックリンの5th Ave.と7th Ave.をぶらぶらした。昼時、7th Ave.でたまたま通りがかったこぢんまりしたイタリアンレストランに入って、ランチを取ったのだけど、めっちゃ美味かった。アメリカに来てから一番美味かった。いやいや、アメリカではぶっちぎりのダントツで、人生の中でもイタリアン部門ベスト3に入るくらい美味かった。出てくるのがやたら遅かったけどね。その間についついワインを飲み過ぎてすっかり酔っ払ったぞ。だって注文してからメインのパスタが出てくるまで小1時間。ランチ時で混んでたってのもあるけどそれにしてもね。だけど、おれ以外のみんなはとくに気にするふうでもなく、ぺちゃくちゃおしゃべりしつつ本や新聞を読みつつ、待ってるんだな。むしろ最も時間的余裕があるのは旅行者であるおれのはずなんだけど。あれ、そこの白衣を着た人を含む団体さん、昼休みじゃないの? そこのおねえさんも? 昼休み何時間?

……とここまで書いて、続きはまた夜にでも……のつもりが、その後はまったく書きたくなくなって、あるいは書けなくなって、もう日本。川崎の自宅。ゆうべ帰ってきた。時差ぼけの午前五時。
 書きたくなくなったor書けなくなったのは、やっぱニューヨーク、刺激強すぎてね。いろいろ思うこと考えることありすぎてね。たぶん、それを即席の文章にできなくなったんだと思う。軽薄な文章にしたくなかったんだと思う。文章書くのって難しいわ。ブログだからなおのこと難しいのかもしれんが。毎日のようにぎょうさん書いてる素人ブロガーの方って、凄いよなあ。あ、もちろん、今のには皮肉の毒薬が混じっています。ははは。

 その後の数日間In NYについては(いや、アメリカ旅行全般について、と言ったほうがいいか)、おいおいここで、あるいはどこかで、書くことにします。そのまんま、あるいは(こっちのほうが可能性は高いけど)、虚構を交えて。

 一言だけ。
 ……いや、止めた。
 ではまた。

6.19.2008

アムトラックの車内にて


 ニューヨーク市へ向かうアムトラック(鉄道)のロビーカーでこれを書いている(アップがいつになるのかはわからないけど)。昨夜はオハイオ州クリーヴランドで一泊。今朝早く再びアムトラックに乗り込んだ。NYCに到着するのは夜の7時半だっけな。約13時間の鉄道の旅。クリーヴランドは、予想以上にダウンタウンがさびしく(しかもかなり大規模なリニューアル工事をしていた)、そのさびしさを味わうには、いずれにしろ時間が足りなかった。そう、にぎにぎしさの類いを味わうのはわりと簡単だけど、さびしさの類いを味わうには想像力や知恵や悟性が、そしてそれらを醸成する時間が要るのだ。
 やっぱ列車の旅はいいねー。行動が限定されているのがいい。寝るか読書するか景色を眺めるか景色を眺めつつ物思いにふけるか。あとはまあ、こうして書き物をするか。そのどれもが好きなことではあるんだけど、むしろ肝心なのはそのどれかをするのが積極的な理由からじゃないところがいい。他にすることもないし本でも読むかってところが。景色を眺めるにしても観光バスツアーのように強いられるんじゃなくて、窓というものがあるからたまたま外を見てしまっているかんじが。たまたま見てしまっているのがべつに見るに値する景色じゃないところも。今このLake Shore Limited と名付けられたアムトラックは(おそらく)ニューヨーク州北部の、たぶん見るに値しない森と平原の中を走っています。なんか北海道にもこんな風景があった気がする。で、列車、とりわけ欧米の列車の中では、できることが少なくとももう一つあって、それは見知らぬ人との、あんまり積極的じゃないおしゃべり。たまたま席が隣り合ったから、とか、ロビーカーで向かいに座っちゃったし、とか、目が合ってハイと言って笑みを交わしたついでに、とかそんなかんじで始まるおしゃべり。じつはこれを書き始める前の半時間ほど、今は向かいでテーブルに突っ伏して眠っているストレンジャーとおしゃべりしていた。たどたどしい英語でではあるけれども。彼の名前はケイシー(Casey)、ミシガン州出身で今もミシガン州に住む学生。専攻はロシア文学とその英訳についてだとか。おれがゴーゴリの「外套」が好きだって言ったら感激してた。ニューヨークを経由してヴァーモント州のなんとかって市(聴き取れない)にある大学の夏期特別講習を受けに行くんだって。またもやメガネくん。……隣のテーブルのカップル(というか、関係は知らないけどとにかく男女)は絵の具と筆を使って一心不乱に絵を描いている。斜め前のおばさんはトランプで一人遊び。前のおじさんは窓の外に顔を向けたまま微動だにしない。斜め後ろのおれと同年代と思われる女性はおれと同様マックで書きもの。さっきトイレに行ったついでにディスプレイをちら見したんだけど、立ち上げているのは明らかに文章作成用のソフトで、改行のかんじがどうも小説っぽいんだよなあ。そういえば、「巡礼者たち」とかいうタイトルの本が新潮クレストブックから出ているエリザベスなんとか……えーと、エリザベス……ギルバートだ!……にちょっと似ている……。まあ本物ではないだろうけど……なーんて、本物だったりして。
 ランチを取るべく(?)人がわんさか集まってきた。一つ前の車両が食堂車なんでね。おれも……と言いたいところだけど、さっき、ケイシーとおしゃべりしながら、彼のママが焼いてくれたというクッキーをごちそうになったから、たいしてお腹減ってないんだな。
 それよか、眠くなってきた。ので、一眠りすることにする。

6.18.2008

シカゴにて、その2


 シカゴ最終日。今夜、アムトラック(鉄道)に乗ってクリーヴランドへ向かう。
 再び、朝のistria cafe。
 一昨日はダウンタウンを散策。ほとんど無計画に。それぞれのビルディングが、個性的かつ全体の調和を乱さない(これ重要)建築美を有しているので歩いてるだけで楽しい。ふらりと入ったMuseum of contemporary artはとても刺激的だった。展示作品だけでなく、美術館そのものも。働いてる人も来館者の多くも…あえて一言で言うなら…スマート。で、ふいに思ったのだけど、どうして日本の美術館ってのは権威臭およびお勉強臭が漂っているのだろうね。おじさんおばさん臭や議員臭や官僚臭も。まあいいけど……そのへんにも、外国では嬉々として美術館を訪れるのに日本ではいまいち足が向かない理由があるんだな、と今さらながらに気付いた。夕方には、なんとかっていう(調べればわかることだけど)超高層ビルの96階だか95階だかにあるバーで絶景に感嘆しつつ高所に恐怖しつつ、値の張るマティーニやシャンパンを飲んだ。夜は、ジャスティンの妻ヒーキャンも加えて、ハイドパークエリアで最近ちょっとした評判になっているらしい「Park52」というレストランへ。まあ、はっきり言って、たいしたことない。がしかし、けっこうめかしこんで来ている大半の客、そして店の側も、どうやら、そのたいしたことなさを認識している様子はなく、というか、むしろ誇っているような様子さえ感じられ、それが非常にアメリカらしいと思う。これは皮肉というより羨望かもしれないよ。アメリカを相対化できる経験と知性を持ち合わせているJ&H夫妻もほぼ同様の感想。
 昨日はベースボール・スタジアムへ。ホワイトソックス対ミネソタ・ツインズ。試合よりも観客を見ていた。そっちのほうがずっと面白いからね。平日のデイゲームだというのにスタジアムは三分の二ほど埋まっている。なんで平日にデイゲームを組むのか知らないけど、夜の仕事の人にとってはありがたいことだよな、と思った。試合後は、Jの友人=マックスの家へ。マックスのレコード&CDコレクションに驚愕と感動(ちなみに書籍のコレクションもすごい)。ブルーズ、カントリー、ロック、パンク、ニューウェイヴ、オルタナティブ、ジャズ、クラシック、ポエトリー・リーディング……まるでクレイジーなレコード屋。え?これ一人で集めたの?と不思議に思ったら、約半分は去年亡くなった元ヒッピーの父親から引き継いだのだという。なるほど。ジョイ・ディヴィジョンの見たこともない(ブートレグってことか?)LiveCD(マックスは「これがジョイ・ディヴィジョンのベスト・テイクだ」と言う)をコピーしてもらう。ちらっと聴いたのだけど、やばいぞ、これは。Jによるとマックスは音楽に限らずポップ/カウンター・カルチャー全般に造詣が深く(その社会的背景にも通暁している)、その筋の専門家にさえなれそうなのだが、現在はシカゴ大学で、毛沢東時代の中国人民文学(正式な呼び名をおれは知らない)を研究する博士課程の院生。奥さんはヒーキャン同様コーリアン。21か月になる子どもの名前はオスカー。このねじれ具合はいったいなんなのだ。もちろん(!)マックスは髭にメガネだ。

6.17.2008

シカゴにて


 シカゴにいる。何日目だろう。月曜だから四日目か。朝、8時半過ぎ。滞在先のジャスティンのアパートメントのすぐ近くにあるアートセンター内のカフェにいる(今、AirMacをオンにしてみたら、どうやらインターネットを使うにはここのメンバーにならないといけないみたいなので、文章だけ打ち込んでおいて、後ほどジャスティンの家でアップすることにしよう)。ここはシカゴのダウンタウンからバスで20分ほど南へ下ったミシガン湖畔の住宅街。シカゴは、概して北側が中流から上の人たちの居住区、南側が下層の人たちの居住区になっているらしいのだけど、このハイドパーク・エリアにはシカゴ大学(ジャスティンもここの博士課程に所属している)があるので、大学関係者をはじめとするインテリもたくさん住んでいて、その彼らとちょっとヤバめな黒人(もちろんヤバめなのは黒人のごく一部なのだけど)との共存が、なんとも言い難い不思議な雰囲気を醸し出している。この数日の印象では、黒人が60%、白人が35%、残り5%がヒスパニックとアジア系というかんじか。白人はメガネさん/くん/ちゃん(たとえメガネをかけていなくてもメガネが似合いそうな連中ーーウェス・アンダーソンとかエイミー・ベンダーとかマイケル・ムーアみたいなの)が多いかな。いけ好かないコンサヴァ/マッチョ金持ち白人みたいなのはあんまり見かけない。大半は民主党、とりわけオバマの支持者といったかんじ。というか、ジャスティンによると、ほんとにそうらしい。
 ジャスティンいわく「世界一ワンダフルな書店」である、シカゴ大学の生協の書籍部にはほんと感動した。もっとも、おれにはLiteratureのコーナーくらいしかわからないのだけど、その品揃えときたら! 週刊誌やファッション誌や人生教訓本やロマンスやミステリーが、まったく置いていない(ブコウスキーやチャンドラーやエルロイなどはちゃんとあります)のも潔くて(…潔く思えるのは日本人の感覚であって、彼らは大学内の書店なのだからそれは当然と考える)素敵である。迷いに迷って、結局、ヘンリー・ミラー(またかよ!)を二冊買う。ちなみに本は安くない。しかもイリノイ州の消費税は9.25%。
 ミシガン湖畔は芝の生えた公園になっていて、ジョギングやサイクリングや読書や友との語らいや愛の告白や考え事やうたた寝にうってつけ。もちろん走ったぜ。ジョガー多し。日本とちがうのは若い人の比率が高いということ。あと、iPodを手に持って(腕に巻き付けたりポケットに入れたりせずに、直に手で持って)走ってる人がけっこういるのが笑える。ゆうべは酔っ払ってからミシガン湖畔に行き、ダウンタウンの高層ビル群とその背後でたびたび発光する雷を観賞した。すっかり満ち足りた気分になり、しまいには半時間ほど微睡みさえしたのだが、今朝のニュースによると、ぼくらが「わぁーお!」「きれいだねー」「まるでショーだ」とか言いながら嬉々として眺めていた雲と雷は、ウィスコンシン州で大雨と洪水をもたらし、死者さえ出たのだという。世界というのはじつに多面的構造を擁している。
 今日はこのへんで。

6.06.2008

アメリカへ

 うはー。久しぶり。時々チェックしてくれてたみなさん、ほんとごめんなさい。久しくブログ休業してました。めちゃくちゃ忙しかった……というわけでもないんだけどね。なんか書きそびれてた。話題には事欠かなかったんだけども。ハーフマラソン走ったりとかね。京都に行ってきたりとかね。またカゼひいたりとかね。あ、ところで「女たち」の第九話は読んでくれた? そのことさえ書きそびれてた。

 さて、いきなりなんだけど、明日から十日ほどアメリカに行ってきます。まずはシカゴ。クリーヴランドかピッツバーグあたりを経由して帰りはニューヨークから。何をするかぜんぜん決めてないんだけど。まだ用意さえ終わってないし。明早朝には家を出るというのに。久々の一人旅ということでけっこうわくわく。いや、じつは昨日くらいまではいささか気が重かったんだけどね。ここ数年でフットワークが重くなったようで。そういえば、この間、テレビ東京で「新ニッポン人の動向〜二十代の生態」みたいなタイトルの番組がやっていて。それを見てたら、今の典型的な二十代の若者は海外旅行とかぜんぜん興味ないみたいね。タバコも吸わない、お酒もほとんど飲まない、車にも興味なし、海外も興味なし。で、貯蓄率は異常に高いという。すごいね。おれは完全に旧ニッポン人だよ。まあそれでいいんだけど。
 
 アメリカでネットに向かう余裕があったら書きます。が、どうでしょう。あんまり書いちゃうのももったいないしな。吐露しすぎるのは良くないよね。やっぱ胸に貯めておかないと。お金は貯められないけど、体験とか考えたこととかは貯めておかないと。とぼくは思っているのです。この意味ではおれ、貯蓄率高いよ〜。

 では行ってきます。
 あ、そうだ、そんなこんなで、6月の「女たち」は休ませてもらいます。次は7月。

4.23.2008

QUEEN'S HOTEL ANTIQUESにて

ゆうべは、吉祥寺にあるクイーンズ・ホテル・アンティークスの、この世のものとは思えぬ素晴らしいスイート(と言いたくなる素敵な屋根裏部屋)で、最近知り合って意気投合した星野有樹とその妻リミちゃんと三人で飲み食い語り明かした。午後7時ちょっと前に始めて午前5時過ぎまでの約10時間半、途中トイレに3回か4回、それ以外は休憩も居眠りもなしで、飲み続け喋り続けた。こんなにワンダフルな徹夜はいつ以来だろうか。シメイ、キリン・クラシック・ラガー、シェリー、スパークリング・ワイン、スコッチ・ウィスキー、マグロとアサリの煮込み、フジッリとブロッコリー、バゲット、恋話、映画や小説や音楽や写真の話、バカ話、家計の話、希望や失意の話、人の悪口、この世への罵倒、この世界への慈しみ、ハッピーバースディトゥーユー、タバコ、イチゴ、かきの種、夜の静寂とその静寂を突き破る車の走行音、白んでゆく空、朝の陽光、その他、そういうぜんぶが、ものすごく味わい深かった。しかも、最近の傾向として、多いに飲んで多いに喋った翌日というのは、たいてい塞ぎの虫に襲われていたのに、今日はこうしてブログを書いてしまうほどに、元気なのだ。あれ?虫くん何処?みたいな。そして、今日はおれの誕生日なのだ。イエーイ。何歳になったかはいささかびびっているので教えないけどね。

4.16.2008

ジェリーフィッシュ

 あんまりたくさん数を観ないせいか、すごく吟味するせいか、映画選びに関しては天才的な嗅覚を有してるせいか(!)、プライベートで観る映画(映画館でね)に、ほとんど外れはないのだけど、久々にちょっとコケました。「ジェリーフィッシュ」。現実とファンタジーのバランスがどうも気持ち悪いんだよなー。あと、なんというか、パステル調のセンチメンタリズムも。つまり、だから、パステル調が好きな人は気に入るかも。パステルズは好きだけど、パステル調はダメなんよ、おれ。
 あと、なんか話題あったっけな? いっぱいあるといえばあるし、ぜんぜんないといえばない。ノックアウトされるような音楽や小説にもここんとこ出会っていないような。ザ・フォール(the fall)にはジャブを食らいまくってるけどね。トム・ジョーンズにもボディブロウを決められてるんだけどね、けど、読み返すの、もう四回目とかだから、ダウンはしません。あ、そうそう、これから公開になる映画では、ロイ・アンダーソン監督の「愛おしき隣人」がすげえ楽しみ。前作の「散歩する惑星」にはやられたからなあ。あと、今公開されてる「今夜、列車は走る」っていうアルゼンチンの映画が気になる。明日あたり観に行こうかな。観に行ってもここに感想を書くかどうかはわからないけど。いや、べつに意地悪とかじゃなくてさ。その程度なんだよ、このブログの存在って。って自分で言ってどうする? 慌ててフォローすると、しかしながら侮れないぞ。とんでもなくワンダフルなことを書くかもしれないぞ。

さて、今月も「女たち」が更新されました。「タマヨ」です。ご笑覧を。
チャオ。

4.08.2008

だらだら。

そう言えば、ずいぶん長いこと、走ることについて書いてないね。けど、書いてないだけで、それなりに走ってるんだな。まあ、週にせいぜい二回だけどね。距離も長くて10キロとかだけどね。ペースもだいぶ落ちたし。
で、昨日は、花見客で賑わう、あるいは酔っ払いでうっとうしい、駒沢公園のジョギングコースを六周=約13キロ走った。今日は調子いいなあ、と走りながら思ってはいたのだけど、時計を見て、びっくり。往年の、ってへんだな、たかが一年数カ月まえのことだから、えーと、つまり、自己ベストに近い走りが戻ってきたではないか。しかも、最後のほうは日差しのかんじもすごく良くて、風の強さも冷たさもちょうど良くて、ちょっとだけアレを感じたぜ。アレを。ちょっとだけだけど。
前回の文章のせいで、何人かから「大丈夫?」系のメールをもらったけど、ぜんぜん大丈夫よ。ぜんぜん大丈夫じゃないのは、コンサドーレ札幌だよ! 何年かぶりにJ1に戻ってきたので、おれも先週末、何年かぶりに、味の素スタジアムに観戦に行ったのよ。悄然としたね。まあ、選手は一生懸命やってるんだろうけど。お金のないチームの悲哀。溜息をつきっぱなしの、おれと結婚していなかったら、絶対に札幌のサポーターになっていなかった妻に責任を感じ。けど、阪神タイガースは調子いいからね。最初だけかもしれないけど。まあ、うまく行くこともあれば、いまいちなこともあるってこと。と、無理やり結論して、今日は寝ます。グンナイ。
しっかし、だらだらとした文章だな! 

4.02.2008

タンガニーカ湖の水質調査に行ってたわけじゃないんです。

いつものことだけど、しばらくです。けど、今回の、しばらく、には、いつもとはべつの理由があってね。タンガニーカ湖の水質調査に行ってた、とかとはべつの理由が。皆さんご存知のように、おれ、基本的には、このブログには真面目な、というか、シリアスなテーマについては書かない、と決めてるわけ。誰かと論争になるようなこととか、批判めいたこととかは書かないってね。あと、感情を吐き出さざるを得なくなるような私的なことも。それがおれにとってのブログの流儀。ね? だって、ここには編集者がいない、つまり、検閲の機能がまったく働いていないわけじゃん。書くのもおれなら、アップするのもおれ。垂れ流しで書いてたら、それこそ収拾がつかなくなるでしょ。まあ、じっさい、ネット海を漂っていると、そういう光景に遭遇することが多々あるんだけどね(それこそがネット空間の面白いところ、と言えなくもないんだが)、少なくともおれは、自己抑制のないブログや、ひき逃げ的な書き込みを心から軽蔑してる。あ、だから、もちろん、プロの批評家や小説家が、自分の名前を晒して、つまり、自分の職業生命を半ばかけて、書いてるのはいいんだよ。それは非常に真摯な姿勢だから。ちょっと矛盾するかもしれないけど、そういう意味では、おれも名前を(顔も!)晒してるわけだし、なにを書いてもいいんだろうけど、原稿料なしでそんなタフなことやってられっか、ってのもあって(これは重大)、書かない。
ところが、この間、久しぶりにネット海に、しかも大海ではなく、内海に出ていたら、とあるブログに、看過し難い寸評があってね。頭に来たし、正直、傷ついた。具体的には、群像に掲載された「ウィンタータイム・ブルーズ」を批判してるわけだけど、その批判内容はどうでいいの。おれの小説をどう読もうが、どんな感想を持とうが、それは言うまでもなく、それぞれの自由なんだから。おれが愕然としたのは、おれとその人との個人的関係にもかかわらず、批判めいたことを、ブログというパブリックなスペースにぬけぬけと書いてしまうっていう行為。人間関係の如何にかかわらず、作品を批評し、それを公共の場に、しかもまったく検閲のない場に、書くことが、クールだ、とでも思っているのだろうか。つーか、あんたはプロの批評家? なんか勘違いしてないか? 何か言いたいことがあったら、おれに直接言えばいいんじゃないの? 電話番号だってメールアドレスだって知ってるんだしさ。・・・おれの言いたいこと、皆さんに伝わってるだろうか? 要するにね、例えばだけど、おれが、曽我部恵一の新曲に、批判的な感想なり意見なりを持ったとするよ。でも、それをずけずけとこのブログに書く? 書かないよ、絶対に。だって友人じゃん。そういうのは本人に会った時に「おれはこれこれこう思うんだよねー」って伝える。繰り返すけど、それが友人ってことだし、言い換えれば、愛の希薄なこの世界における死守すべきささやかな愛だし、あるいは愛なんていう野暮ったいかもしれない物言いを避けるなら、マナーや抑制の箍が外れた荒れ狂うネット海での、最低限のマナーや抑制ってもんじゃないのか。
というようなことを書こうか書くまいか、書くとしたらどんなふうに書こうか、迷っているうちに、しばらく、になってしまったのである。結局、こんな書き方になってしまったけどね。
次回からは、また、テキトーなブログに戻ります。楽しみにしててね。あ、いや、楽しみにしてもらうほどのブログではないんだが。ほんとは今日も映画の話をしたかったんだよなあ。「ダージリン急行」! 「コントロール」! 

3.15.2008

文庫本が

気が付けば久しぶり。そして春。時間が流れるのは早いね。ここ数日は、花粉症にやられてる上にちょっと(たぶん)風邪気味で、朦朧としたまま先を行く時間を追いかけてる、といったかんじ。

「終わりまであとどれくらいだろう」の文庫本が発売されました。買っていただけましたか。まあ読んでくれればいいんだけどね。うそ。読んでくれなくてもいいのでね。まあ買ってくれればね。ぼくも昨日渋谷のブック・ファーストで買いました。税込み610円。「アヴェ・マリア」のニュー・ヴァージョン、そして石川忠司氏の素晴らしい解説もついてこの値段ってのは非常にお買い得だと思うねー。長崎訓子さんに描いてもらった表紙の絵もカッコいいし。ん? これで本体価格581円? まじで? 二冊買って一冊はトイレに置いといたらどうです? ってしつこいなー、おれも。

「女たち」第七話もそろそろ更新されるんじゃないかな。今月は「マイ」。こちらもご一読を。

さて、これから、映画を観に行く。まあ仕事で。けど、仕事が絡んでなくても、この映画は観に行く。「ダージリン急行」。ではまた。

3.03.2008

スーパーソニック!

いまさらナンだけど、オアシスってやっぱすごいよね。この間、アルファロメオの中でiPodをシャッフルにしていたらだしぬけに(まあ、シャッフルなのだから、どの曲も「だしぬけに」かかるのだが)「スーパーソニック」が流れてさ。前を走っている本物のアルファロメオに突っ込みそうになったよ。これが連中のデビューシングルなんだよな。なんなのだ、この腰の据わり方は。ふてぶてしさは。圧倒的存在感は。書かれるべくして書かれた、というか、人類の歴史の最初っからじつは存在していたんじゃないか、と思わせる曲だ。90年代前半って新しいバンドやアーティストをこまめにチェックしてて、94年発売のこのシングルもリアルタイムで買っているんだけど、その時は正直、今思うほどには凄い曲だと思わなかった。いや、むしろ、あんまりよくない意味で「古くせえ」タイプのロックンロール・ナンバーだなーって感じたような記憶がある(定かではないけど)。だとしたら、ごめんなさいだよ、まったく。ほんとに凄いです、ソーパーソニック!

さて、けっこう大きなニュース第二弾。7日に発売される『群像』4月号に新作(あたりまえか)短篇が掲載されます。じつは純文学系四大文芸誌におけるぼくのデビュー作でもあるのだ。って、いまさら恥ずかしいんですけどね、この事実は。まあ、そんなことはどうでもいい、とにかく読んでいただけたら嬉しいです。よろしく!

2.26.2008

グルーヴァーズよ。ロックンロールよ。

 ばれちゃったね。はい、前回はたしかに最近雇ったブログ専用ゴーストライターが書きました。ああいうことを自分で言うなよな。ったく。ゴーストライターの意味がねえじゃん。で、そいつは今日、なんとか流生け花会の会合とかで欠勤。変な趣味持ってるやつなんだよ。まあいいけどね、どんな趣味を持っていようと。さて、だから今日は、本物のおれ。たぶん。ははは。
 けっこう大きなニュース第二弾!・・・は次回書くとして、今日はだらだらと。
 日曜日にすごく嫌なことがあってさ。仕事のことじゃないんだけど。家庭のことでもないんだけど。マンションの管理組合理事会でのことなんだけど。簡単に言うと、うちのマンションのエレベーター、機械がごちゃごちゃ喋るの。「下へ参ります」とか「四階です」とか「扉が閉まります」とか。それが煩わしくてうざくて苛立たしくて。しかもうちはエレベーターの隣の部屋だからね、なおさら。で、無音にして欲しい、少なくとも音を下げて欲しい、と理事会に出席して希望を述べた。そうすっと、理事のO氏とY氏がごちゃごちゃ反論してくんだよ。一瞬正論に聞こえるけど、よく考えれば明らかな詭弁を。「視覚障害者が来られたときはどうすんですか」とか「それで子どもが怪我したら責任は取れますか」みたいなことを。障害者が来たらって、あのねー、それ以前に、オートロックのインターホーンには点字もなにもついてないんだし、長い廊下にはそれ用のいかなる案内もないんだから、そもそも単独ではエレベーターまで辿り着けないっつーの。子どもが怪我したらって、知るかそんなもん。音声案内がないくらいで怪我するようなガキのことを心配してどうする。ていうかね、おれはちっとも特別なこと言ってないわけよ。普通、というか、大半のマンションのエレベーターは無音なんだから。でしょ? あなたの住んでるマンションはどうです? 喋らないんじゃない? おれはそんなおしゃべりでおせっかいなエレベーターにマンションでは出会ったことないぞ。
 でも、なにより一番苛立たしいのは、そのO氏とY氏のおれを見る目かも。明らかに見下してる。「なんだこの軽薄そうなやつは」「じゃかましいガキめ」「てめえまっとうな社会人じゃねえだろ」的な視線(あ、多少は誇張してます♥)でおれを射るのだ。この屈辱ときたら、むむむ、まかかかか、言葉にならん。くそ。おれはガキじゃねえぞ。てめえらよりもたぶん年上だぞ。社会人かどうかは知らんが、ちゃんと文章書いて金稼いでるぞ。ところで、社会人ってなに? 辞書を引こう。新潮現代国語辞典。①社会の成員としての個人 ②実社会で活動する人 ・・・おれ、社会人じゃん。おれは社会人だ!
 などと憤懣やるかたなしの状態で日曜の半分と月曜の大半を過ごしていたら、昨日、近所の友人が「そんなときはこのCDを」て言って、THE GROOVERSの「Modern Boogie Syndicate」を貸してくれたの。これが。これがとんでもなく素晴らしい。やばい域である。まあ、あえて言うならちょっと古いスタイルのロックンロールなんだけど、古いとか新しいとかはこの黄金のロックンロールの前ではまったく無意味なのだ! ブラボー。すべてのウンコ野郎どもの耳垢のこびりついた耳の中に、大音量でグルーヴァーズが鳴ってるイヤホンを突っ込んでやりたいね。そうすれば、この社会は、もっと生きやすくなるだろう。まちがいなく、生きやすくなるだろう。冗談でいってるわけじゃないのだ。面倒だから理由は説明しないけど。いや、一から説明するのは、もう面倒過ぎて、ギャラなしのブログでは書けないっすよー。おい、雇用主よ、ちゃんと賃金くらい払え。あれ? おれはだれ?

2.16.2008

けっこう大きなニュース第一弾

寒い日が続いていますね。
でも今年の冬はなんか好きだな。雪もいっぱい降ったし。もう一回どかんと降って欲しいんですけど。どかんとね。首都圏交通網が麻痺するくらいに。観測史上最大の降雪みたいなやつ。いつも降ってる地域には降らなくていいので(もうじゅうぶん降っているでしょうから)、東京エリア限定で。
さて、2月の「女たち」がアップされました。今月は「エリ」。お読みください。サザンオールスターズの「いとしのエリー」の「エリー」ではありませんよ。あー古い。悲しくなるほど古いよ。
タイトルの「けっこう大きなニュース」はこのことではなくて、「終わりまであとどれくらいだろう」が文庫本化されることになりました、というニュースです。ね?けっこう大きいでしょ? 2003年に「小説現代」に掲載された、ぼくの初の短篇「アヴェ・マリア」も併録されています――ちょっとだけ加筆したので、ニュー・ヴァージョンともいえるかも。そして! 解説は、ぼくが最もリスペクトする文芸評論家である石川忠司さんが書いてくれました。(じつはぼくもまだその解説を読ませてもらっていないのだけどね――大城くんというナイスガイの色男にして意地悪な編集者に「本が出来上がったときの楽しみにしていてくださいよー」と言われているのです)。さらに! 表紙の絵は、あの長崎訓子さんが描いてくれました。・・・ということは! ということはね、すでに(当然!)単行本を持っていらっしゃるあなたも、正確な値段は知りませんが、おそらくは600円くらいを支払う価値はあるんじゃないですか! そして、ぼくをオハイオ州クリーヴランドに行かせてくださいよ! 発泡酒から卒業させてくださいよ! お金なんてたいして重要じゃないぜ、とか言わせてくださいよ! 
で、肝心の発売日は・・・・・いつだったっけ?大城くん。三月の十何日とかです、たしか。双葉文庫より。よろしくね。

・・・なんか、今日のぼくの文章、変じゃないっすか?
ん? ついにブログ用のゴーストライターを雇ったのか、おれは。

2.07.2008

辞書を買った。

まあ、声高に言うことではないんだけれども。一応、ほら、職業柄、つーか、そういう言い方もどうかと思うけど、当然、何冊か日本語の辞書を持ってるわけよ。けっこうマメに使ってもいるわけよ。もっとも今やネットで引くこともできるわけだけど、あんまし好きじゃないんだな。なのでネットでは滅多に引かない。一番使うのは、シャープの電子辞書にも入っている広辞苑の第五版。次に三省堂の国語辞典、これも第五版。それからベネッセの表現読解国語辞典。あと、たまに講談社の日本語大辞典第二版。もちろん類語辞典や慣用句辞典なんかも使うわけだけど、それはまあ、イレギュラーな辞書だから、今は触れないとして、まあこんな感じ。で、この間、発売して間もない広辞苑の第六版と、平成12年発行の新潮現代国語辞典第二版、を買った。うん、これがなかなか新鮮でね、引くのが楽しくてね、いちいち引いちゃうからさらに書くのが遅くなっちゃってね。とくに後者はいいねー。なんでこれを今まで持っていなかったのかね、おれは。これを持っていれば今ごろ石田衣良になれてたかもしれないじゃん。ってことはないけど、つーかあるわけないし、あっても困るけど、やはり辞書は大切ですね。大切ですよ。小説家たるもの、電子辞書はいざ知らず、紙の辞書を常に持ち歩くべきだ。と改心し、ここ数日、新潮現代国語辞典第二版を鞄に入れて、外出し、タリーズなどで、これ見よがしに、机に載せ、親指舐めつつ、ページをめくっております。今日の夕方は隣席で受験勉強中の女子高校生がこちらをちらちら見ていましたね。オールド・スタイルなお兄さんやなーと思ったかも。とくに親指を舐めてるとこがね。

2.01.2008

ハードコア・パンクと暗くてダルいやつ

ブログの更新を! とEにせっつかれたので、書きます。いや、書かなくてはと自分でも思っているのだけどね、まじに忙しくて。ぼくの代わりに、ぼくを装って、誰にもバレないように、ブログを無給で書いてくれる方を募集します。
さて、この忙しい日々にどんな音楽を聴いてるのか、ということを。不思議なもので、だらだらしてる時って意外に音楽も聴かなくて、忙しい時のほうが熱心に聴くんだよね。最近はハードコア・パンクがマイ・ブームです。マイ・ブーム、なんて言葉使いたくないのだけど、なんて言えばいいの? 最近はハードコア・パンクが自分の中で流行っています? 我が心のラジオ局でヘヴィローテーションです? まあ、そんなことどうでもいいか。とまれ、ハードコア・パンク。USの。Bad Brains,Black Flag,Minor Threat, Adolescents,Big Black,etc. 一方で、再び、Mogwai とか Low とか Portishead なんかの暗くてダルいのもマイ・ブーム。あ、また、言っちゃったよ。まあ、元々暗くてダルいのが好きなんですけど。「キラキラしたポップなメロディが満載」などと帯やポップに書いてあると、99%買わないおれ。
映画も何本か見た。DVDでね。ショーン・ペン主演「リチャード・ニクソン暗殺を企てた男」。非常に面白かった。共感。それから久々に、何年振りだろ? 十五年振りとか? もっと? ジム・ジャームッシュ監督「ストレンジャー・ザン・パラダイス」。最高。昔見た時よりも感動した。アメリカに行くなら、クリーブランドみたいな、エヴァいわく「退屈な街よ」な都市に行きたい。東京とかニューヨークとかロンドンとか、そういうところはあんまり興味が湧かないんだよね、このごろ。いや、もうずいぶん経つかな、そういうふうに思うようになって。東京って最高!とか言ってる人に会うと、この人ちょっとおかしいのかな、って思っちゃう。と、そんな話を、在シカゴの友人とリンリンリン電話で話して、今朝未明にずいぶん盛り上がったのだった。で、いっしょにクリーブランドやインディアナポリスやミルウォーキーに行くことになった。っていつよ? いつ行けるのよ? 皆さん、ぼくの本が出たら、買ってくださいね。

1.15.2008

こんにちは、石田衣良です、

と言いたいくらい、なんだかやけに忙しい、桜井鈴茂です。単に仕事が遅いだけなのかもしれないが。いや、じっさい、遅いのだ、おれは。すらすら、なんて書けないのだ。つーか、書けるわけねーだろ。開き直るぞ。
いやまあ、それはそうと、みなさん、今年もよろしくお付き合いください。

さて、たった今、「女たち」の第5話が更新されました。今月は「サンドラ」!  なんで!マークをつけるのか自分でもわからないが、もう一度、サンドラ! 読んで! サンドラ! アミーゴ! ボンディア! コモエシュタ? クアントフィーカ? オブリガード! アテローゴ!

1.07.2008

新年

あけましておめでとうございます。秘書のEです。

年末に「百年」で行われたトークショウに足を運んでくださったみなさん、どうもありがとうございました。
桜井はイベント中に盛り上がりすぎて、ワインを1本開けてしまい(!)かなり酔ってしまったようでしたが、クールな曽我部くんのおかげで楽しい夕べになりました。曽我部くんの弾き語りも素敵でした。素晴らしかった。

さて近況ですが、正月休み返上で(本人談)、「女たち」の連載はもちろん、別の媒体に掲載予定の短編を執筆中です。ブログの更新が滞ってしまっておりますが、髪をかきむしりながらキーボードを叩いているはずですのでしばしお待ちを。

そういえば、正月休み返上で・・と書いておきながら元旦から桜井夫妻とカラオケに行ったのでした。カラオケなんて何年ぶりかなあ?全員同年代のため歌う曲すべて古すぎました。がっくり。そして、みんな順番に曲をエントリーしているのに、自分の分だけ連続で入れるKYなスズモ先生にいちいち注意してしまう私もなかなか大人げないな・・・と反省してしまうのでした。

それではまた。