8.14.2008

三十歳以下の人間を信用するな!

たまには読み物の話を。
本当にひさしぶりに眠るのを惜しんで、いや、というより、眠るのも忘れて、読み耽った一冊の本と雑誌掲載の長篇評論。

まず、吉田豪「BAND LIFE バンドライフ」(メディアックス)。いまみちともたか、水戸華之介、関口誠人、阿部義晴、NAOKI、KENZIといった主に80年代から90年代初頭にかけて活躍したバンドマンたちへのインタビュー集なんだけど、吉田豪のインタビュアーとしてのテクニックと(たぶん)人柄に乗せられて、それぞれが、その生い立ちや、人気絶頂期の裏話や、その後の生活などについて吐露している。とくにすげえファンだったアーティストがいるわけじゃないんだが、へえバンドの裏事情はそうだったのか、とか、あの人は今なにをしている、とか、そういう三面記事的なことを軽く超越して、人間というものやぼくらの生きる社会や生きることの悲哀みたいなものが浮かび上がってきて、最終的には感極まってしまう。へたな小説よりよっぽど面白いぞ。思わず膝を打った――というか笑ったダイヤモンド・ユカイの言葉……「ドント・トラスト・アンダー・サーティ!」

それから出たばかりの「新潮」9月号に掲載されている、水村美苗「日本語が亡びるとき――英語の世紀の中で」。これはねえ、もうなんと言ったらよいか。激しく共感したし、おそろしく高揚したし、深く感銘したし。おれがここ数年、いや、潜在的にはかれこれ二十年間くらいひしひしと感じていたことぼんやりと考えていたこと、けれども怠惰だから、あるいは馬鹿だから、体系的に把握できないでいたこと、酔った席とかで誰かに言ってみたりはしたもののそれを語るきちんとした言葉を持たないがゆえに当然ながらちゃんと理解されずにいたこと、そしてちゃんと理解されないから苛立って思わずデカイ声になり相手に煙たがられ、しまいには支離滅裂になって時には翌朝の自己嫌悪の原因の一つにさえなっていたことが、すばらしく実際的、かつ、うっとりするほど美しい日本語で綴られている。読んでいる間、ずっと胸がばくばくしていた。へたな小説よりも三百倍は読む価値があるぞ。今後はこれを読んだ人としか、日本語についてや日本語文学についてや世界における日本のポジションについてやインターナショナリズムについてやローカリズムについての議論はしません! まあ、酔ってふっかけるかもしれないけどね(笑)。中心となる論旨とはあんまり関係ないけど、思わず膝を打ったフレーズ……「そして、世界の様子がさらにわかるにつれ、世界のスノビズムもわかってきた。世界のスノビズムがわかってくれば、辺境ほどスノッブになるという法則が働く。」 

ではまた。