12.24.2009

ちっともレヴューにはなっていない、スズモのフィルム・レヴュー、No.1879

ども〜。
ツイッターには3日で飽きちゃったね。3日坊主、というか、覚えたらそれで満足したという。
さて、クリスマスに年の瀬か。ぼくはいっそのこと両方とも無視して寒い冬の中央分離帯を突っ切ろうと思ってるんだけど。ま、チキンくらいは食べるかも。それと、年賀状くらいは買うかも(出すかどうかはともかく)。……あ、掃除もさせられるか……。この間、掃除グッズを買ってたもんなあ……。

えー、最近、映画館と試写で観た映画をざっと乱暴に紹介。スズモの不定期フィルム・レヴュー。

まずは、『脳内ニューヨーク』チャーリー・カウフマン脚本・監督。
じつは東京でのロードショーはもう終わっちゃったんだけど。文句なしに五つ星。観終わってから15分ほど渋谷の街をさまよい歩いた、すぐには自分の生きる日常に戻っていけなくて。今年のベスト3には絶対に入る。ここ5年のベスト10にも入るな。ほんとはぼく、基本的には非リアリズムの作品って好きじゃないんですよ、映画に限らずね。スターウォーズとか千と千尋の神隠しとかについて行けないタチなわけ。かつて学生時代、インディ・ジョーンズを普通に料金払って映画館にまで観に行って途中で眠った男だからね、いっしょに行った友人には呆れられたけど。まあ、SFとかアニメとかファンタジーとかまでいかなくとも、現実的にあり得ないシーンが出てきたり、あまりにもつじつまが合っていなかったりすると、女の子の脛毛を目の当たりにした時みたいにあっさり白けるわけ。夢のない男なの。狭量な男なの。関係ないかもしれないけど寝てる時に見る夢も夢のくせに妙にリアルだしね。空を飛んだり妻の骨をしゃぶったりできないんだよ、おれ。たぶん、悲しいことなんだろうけど。が、しか〜し! とりわけ『マルコヴィッチの穴』がそうだったけど、カウフマンは別だね(ついでにいえば、ディヴィッド・リンチも別)。リアルかどうかはどうでもよくなる。というか、彼の脚本って非リアル世界の前提となっているシチュエーションと感情が怖いくらいにリアルなんだよね。少なくとも愛と死と芸術について考えたことのある人なら、ぐっとくるはず。たぶんだけど、胸をかき乱されるはず。俳優陣はほとんどが中年だけどみんな素晴らしい。ジョン・ブライオンの音楽も素晴らしい。まだロードショーの続いてる都市の方は急いで。関東地区や終わってしまった都市の方はDVDが出るのを待って。

それから、試写で観た『フローズン・リバー』コートニー・ハント脚本・監督。
一般公開は来年1月末だそうだけど、ぼくが2009年に観たという意味では、これも今年のベスト3に入れたい(ということは、あともう一本はやはり『レスラー』ということになるか)。いや、入れたい、どころか、いっそナンバーワンにしてもいいくらいだ。うんそうしよう、ナンバーワンにしよう。発表します。ぼく(おれ、わたし)、桜井鈴茂が2009年に観た映画のナンバーワンは『フローズン・リバー』です。はい、たしかに、コートニー・ハントという女性監督の長篇デビュー作であり、有名な俳優が一人も出ていないインディペンデント映画である、ということで、判官贔屓はあるけど。つーか、そんなのあって当然か。……少しだけ内容に触れると……いや、やめておこう……面倒だし。ようするに、貧困と犯罪ってのが縦糸で、親子の愛情と母親同士に芽生える友情ってのが横糸。これらに、アメリカ社会における民族的マイノリティーというインクを染み込ませて、淡々と、かつ、丹念に、けっして喜劇にも悲劇にも流れることなく、ひたすらニュートラルに縫いあげていった大傑作。とくに、豊かな社会における貧しい暮らしとその悲哀をこれほど生々しく描いた映画をぼくは知らない。ま、だから、社会的な、とも言えるんだけど、それ以上にどこまでも芸術的。ようするに、レヴェルの高い芸術作品ってのは、現実の社会問題をカヴァーしちゃうキャパがあるってことだと思う。……あ! 今、手元にあるフライヤーをちら見して突然に思い出したけど、コーエン兄弟の『ファーゴ』の匂いもある。……けど、この『フローズン・リバー』の前では『ファーゴ』さえ霞む。ダニエル・ジョンストンの前ではポール・マッカートニーも縮むのと同じだ。……いやまあ、とにかく、素晴らしいんだよ! ぜひ、観て! 

最後に、これも試写で観た『抱擁のかけら』ペドロ・アルモドバル脚本・監督。
……なんだが、だんだん疲れてきたし(じつはカゼをひいてしまい)、こちらは1月25日発売の「クロワッサン」誌に寄稿したので、そちらをお読みください。もちろんそこでは、こんなブログの主観オンリーの言いっ放しじゃなくて、ちゃんとストーリーにも触れてるし、少しはレヴューらしくなっているはずなので。一言だけ言っておくと……なんてったってアルモドバルだからね。最高級のメロドラマだよ!

それと、前回も書いたけど、今週土曜26日午後4時から、シンガーソングライターの中村ジョーくんと、下北沢のギャラリー&カフェcommuneでトークするので、良かったら遊びにきて。

それでは。
メリークリスマス。
鼻水とまらないよ。

12.16.2009

Talk@Commune

こんにちは。やっと冬らしい寒さ。押し迫ってきたな2009も。実感はないけど。というかあえて視界に入れぬように。

昨日、友人に、Twitter超面白いよって猛プッシュされてさっそく入会……入会って大げさか、とにかくはじめた。まだ面白さはわからぬ。いや、わりに面白いかもという予感はある。そうそう、2ヶ月くらい前にiPhoneに変えたのね……変えたんだけど、ごくふつうの携帯電話端末として使ってた。せっかくだし、まあちょっと、新しいコミュニケーション宇宙をさまよってみるか、と。

それはそうと、緊急なニュース。12月26日土曜の午後、下北沢のcommuneというギャラリー兼カフェ(正式にはなんていうんだろう?)で、シンガーソングライターの中村ジョーくんとともにトークショーをやります。2009年に出会った素敵な本や音楽や映画やその他について語ってくださいとのことなので、まあゆるゆるとお話しします。ジョーくんは弾き語りも披露してくれるみたい。気軽にお越しいただけると嬉しいです。

今日は取り急ぎ。
さてさてツイッタ―笑

12.04.2009

ダイナミズムとはロマンチシズムが

あれあれ、気がつけば、師走に入ってる。早すぎるっての。参るね。

とくに書くこともないんですわ。失意にひしがれている毎日です。などと書いても、冗談に聞こえるみたいなんですけどね、冗談じゃないです。←右の写真とかが良くないんですかね? しかし、わざわざサッドフェイスの写真を撮るのもねぇ。

何日か前のこと、すでに契約は切れたはずなのに、なお律儀に配達される読賣新聞を読んでいると、国際面にウルグアイの大統領選挙のニュースが載っておりました。中道左派与党「拡大戦線党」のホセ・ムヒカ氏(74)が当選を確実にした、と。「優しい風貌の元ゲリラ」と題された写真付きの囲み記事によると、この方、「かつては強盗や誘拐に手を染めた元左翼ゲリラ」だそうで。要約するの面倒なので、というか、記事がすでに要約なので、そのまま転載します。「首都モンテビデオ出身。小学3年で父を亡くし、貧困の中で育った。家畜の世話や花売りなどで家計を助け、20代で労働運動にかかわり、やがてゲリラ活動に身を投じた。1972年に検挙され、軍事政権が終わる85年まで収監された。出所後は元ゲリラ仲間と政治団体を作り、95年に初当選。2005年にはバスケス大統領率いるウルグアイ初の左派政権で、農牧水産相に就任した。……(中略)飾らない性格で、貧困層や工場労働者の支持は高い。愛称は「ペペ」。05年、ゲリラ時代に知り合ったルシア・ポランスキー上院議員と結婚。愛読書はセルバンテスの小説「ドン・キホーテ」という。」……いやあ、なんかわくわくしませんか? 希望があるでしょ? こういう人が大統領になれちゃうダイナミックな世の中って。それに比べて、我が国というのは、ほんと閉塞的な社会だよねえ。端っから首相になりそうな出自のやつがまんまと首相になってしまうという。いや、ぼくは今のところハトヤマさんをわりと支持してはいるんですけどね、そういう個人的な思いはひとまず置いといてさ、そんなのばっかりでしょ、日本の首相って。少なくともここんところは。そりゃヤギの世話やマッチ売りを経験していればいいってもんでもないけどね、逼迫した理由による万引きを経験したことのないボンボン野郎に……いや、まあいいんだけどさ、つまらん感じがするのよ。閉塞感ってのはこういうところにも根があるのだと思う。せめて、例えば、ノリピーが前原大臣(歳も近いし)と電撃結婚してさ、そんでもってノリピ―のあげまんに乗って前原さんが首相就任とか、そういうこと起きないかな。……この世にもっとダイナミズムを! 

なんて思いで、新聞をさらにめくっていくと、今度は村上春樹氏が『1Q84』で第63回毎日出版文化賞を受賞というニュースに行き当たるわけ。……ああ。つまらん。あんなに売れた、あんなに話題になった本に、しかもとっくに権威を確立した作家に、今になってこんな賞をわざわざ授与する必要はあんのかな。ほんとに、つまらん。こういう、なんていうの? 無難な、事なかれ主義的な、日和見主義的な、その結果、強きを助け弱きを挫くことにもなる臆病なノリというか態度が、ニッポン国には蔓延してるように思うんだけど。もっとカウンターな意識とか気概はないわけ? ほんとイヤになっちゃうよ、去勢された羊みたいなのばっかりで。……あれ? マズいこと口走ったかな。かもな。まあ、いいよ。

で、話し戻るけど、最初のニュース、ウルグアイのね、わくわくするほかにも、なんでか妙にロマンチシズムとでもいうべきものを感じていて、最初は自分でもなんでかわからなかったんだけどさ、数時間後にハッとなった。ホルヘ・ルイス・ボルヘスの短篇に、ウルグアイの左翼の大人物が出てくるのがあって、それがこの現実のニュースの土壌に雨水のように浸透してたんだよね。というわけで、本棚の奥から探し出して再読しました。『砂の本』に入ってる「会議」ってやつ。タイトルは素っ気ないけど、いや、内容もある意味、素っ気ないんだけど、それでも甘美で、切なくて、麗しくて、ああもう、たまらんよ。

ダイナミズムとはロマンチシズムが支えているのである。
……なんて言ってみたくなりました。

いうまでもなく、ロマンチシズムとは、この世を水浸しにしている、あの安い感傷のこと、ではない。

では、良いお年を!……あ、それは早いか。もう一度くらいはね。