6.19.2008

アムトラックの車内にて


 ニューヨーク市へ向かうアムトラック(鉄道)のロビーカーでこれを書いている(アップがいつになるのかはわからないけど)。昨夜はオハイオ州クリーヴランドで一泊。今朝早く再びアムトラックに乗り込んだ。NYCに到着するのは夜の7時半だっけな。約13時間の鉄道の旅。クリーヴランドは、予想以上にダウンタウンがさびしく(しかもかなり大規模なリニューアル工事をしていた)、そのさびしさを味わうには、いずれにしろ時間が足りなかった。そう、にぎにぎしさの類いを味わうのはわりと簡単だけど、さびしさの類いを味わうには想像力や知恵や悟性が、そしてそれらを醸成する時間が要るのだ。
 やっぱ列車の旅はいいねー。行動が限定されているのがいい。寝るか読書するか景色を眺めるか景色を眺めつつ物思いにふけるか。あとはまあ、こうして書き物をするか。そのどれもが好きなことではあるんだけど、むしろ肝心なのはそのどれかをするのが積極的な理由からじゃないところがいい。他にすることもないし本でも読むかってところが。景色を眺めるにしても観光バスツアーのように強いられるんじゃなくて、窓というものがあるからたまたま外を見てしまっているかんじが。たまたま見てしまっているのがべつに見るに値する景色じゃないところも。今このLake Shore Limited と名付けられたアムトラックは(おそらく)ニューヨーク州北部の、たぶん見るに値しない森と平原の中を走っています。なんか北海道にもこんな風景があった気がする。で、列車、とりわけ欧米の列車の中では、できることが少なくとももう一つあって、それは見知らぬ人との、あんまり積極的じゃないおしゃべり。たまたま席が隣り合ったから、とか、ロビーカーで向かいに座っちゃったし、とか、目が合ってハイと言って笑みを交わしたついでに、とかそんなかんじで始まるおしゃべり。じつはこれを書き始める前の半時間ほど、今は向かいでテーブルに突っ伏して眠っているストレンジャーとおしゃべりしていた。たどたどしい英語でではあるけれども。彼の名前はケイシー(Casey)、ミシガン州出身で今もミシガン州に住む学生。専攻はロシア文学とその英訳についてだとか。おれがゴーゴリの「外套」が好きだって言ったら感激してた。ニューヨークを経由してヴァーモント州のなんとかって市(聴き取れない)にある大学の夏期特別講習を受けに行くんだって。またもやメガネくん。……隣のテーブルのカップル(というか、関係は知らないけどとにかく男女)は絵の具と筆を使って一心不乱に絵を描いている。斜め前のおばさんはトランプで一人遊び。前のおじさんは窓の外に顔を向けたまま微動だにしない。斜め後ろのおれと同年代と思われる女性はおれと同様マックで書きもの。さっきトイレに行ったついでにディスプレイをちら見したんだけど、立ち上げているのは明らかに文章作成用のソフトで、改行のかんじがどうも小説っぽいんだよなあ。そういえば、「巡礼者たち」とかいうタイトルの本が新潮クレストブックから出ているエリザベスなんとか……えーと、エリザベス……ギルバートだ!……にちょっと似ている……。まあ本物ではないだろうけど……なーんて、本物だったりして。
 ランチを取るべく(?)人がわんさか集まってきた。一つ前の車両が食堂車なんでね。おれも……と言いたいところだけど、さっき、ケイシーとおしゃべりしながら、彼のママが焼いてくれたというクッキーをごちそうになったから、たいしてお腹減ってないんだな。
 それよか、眠くなってきた。ので、一眠りすることにする。